
被写体とのコミュニケーション
―GION氏が撮影するポートレートには、被写体が生きて来た時間が濃縮されたような空気感が漂います。撮影現場で、被写体との関係性の築き方のコツはありますか?
被写体とのコミュニケーションは、僕自身は得意で強みだと思う。特に、撮影されることを生業としていない人を撮る場合は、被写体の心をほぐしたりいい表情を見せてもらうために、カメラマンとしての僕がどういう言葉をかけて、どのように立ち居振る舞いをするのかはとても重要です。僕自身がどう振舞えばいいかは、演劇をしていた経験で体得したもので、自然と自分の中から湧き出てくるものです。そうした被写体とのコミュニケーションが、ポートレートを撮影するプロセスの中で被写体に反映されて、それが彼らの個性として現れていると思います。
被写体となる人は、どんな人でも必ず緊張しています。たとえ役者であったとしても緊張しています。現場に入って挨拶する瞬間から、どういう状態かを感じて、その心にスッと入っていく間合いを見計らいながら、どんな表情でどう声をかけるか、どんな話題が良さそうか、被写体とのコミュニケーションをずっと考え続けています。
僕は、被写体を撮影する時間は一種の恋愛だと思っています。例えば5分の撮影時間だとしたら、全神経を僕に集中してもらいたいと思っているし、そういうつもりで撮っている。じゃなければ、いい写真は撮れない。
全神経を集中して撮影をしていると、ほんの一瞬だけいい表情をぱっとくれて、そこにいい光がさっと差す。本当に神が全てを完璧にコーディネートしてくれたような瞬間が生まれることがあるんですよ。そういう瞬間にシャッターを押せたと実感した時は、心から幸せを感じます。 それがすごく楽しい。
作品を創ったアーティストでさえ気づかない視点をカメラでとらえる
ー展示風景やインスタレーション作品を撮影する際のアプローチ方法は?
インスタレーションなんて誰がとっても同じって思うでしょ? でも、写真って不思議で、「僕の中ではこれしか撮りようがない。」というのがあるのだけれども、他の人が撮ると違うものが全然違うものが撮れているんです。
インスタレーションの撮影を例にすると、部屋全体が見えるショット、それにいくつかの作品をまとめたグループショットや部屋の奥行きがわかる斜めからのショットといった、アーティストのアーカイブとして必要な基本のアングルは必ずおさえておきます。その上で、例えば100枚の写真を納品する場合、記録的な写真をメインにエディトリアルでも使えそうな遊び心あるショットを混ぜる。さらに作品をつくった本人すらも気づかないようなカメラ視点ならではのものなどを、バランスよく入れます。100枚を通じて、安心感ある写真に始まり発見があるようなショットまで、一つの旅をしているように組み立てています。